中学受験生の息子を父親が刺し殺すという事件が起きました。息子が父親の思い通りに勉強しなかったのが刺した理由だといいます。
この他にも、親が「しつけ」を理由に子供にケガをさせたり、殺してしまう事件が後を絶ちません。
今回は、近年広く社会に知られるようになってきた「教育虐待」という言葉に注目します。
「教育虐待」とは?
「教育虐待」とは、「あなたのために」という大義名分のもと、親が子に対して限度を超えた「しつけ」や「教育」を行うことをいいます。例えば、脅したり殴ったりして、無理やり本人が望まない習い事や勉強をさせるのは「教育虐待」です。
親は子供の未来のために厳しくしていると思い込んでいるため、虐待であるという自覚がなく、子供本人も周囲の人も虐待に気づきにくい特徴があります。
虐待の中で、「教育虐待」は「ネグレクト」に次いで多くなっています。背景には日本社会の学歴重視の風潮も影響していると考えられます。偏差値が高い学校に入学させることが重要だとか、そのために親は頑張るべきだ、などという価値観がいまだ根強く社会に浸透していて、その価値観に追い詰められた親が「教育虐待」に走るのです。
「体罰」は子供の脳にダメージを与え、成長を阻害することが分かっています。激しい体罰を受けた子供は、脳が委縮します。気持ちのコントロールが難しくなったり、学習意欲の低下を招くことになります。将来的には、うつ病や心の病を発症しやすくなるともいわれます。
親の「体罰」が法律で禁止に
「しつけ」を理由とした虐待事件が多発していることを受け、政府は、しつけのための「体罰」を法律で禁止することにしました。2020年4月から適用される予定です。
これまで、日本では親の体罰は容認されてきました。2017年、非政府組織(NGO)「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の調査によると、国内2万人の調査対象者のうち6割近くが、しつけのための体罰を容認するという結果が出ています。世界では54カ国が体罰を法律で禁止しており、日本人の意識の低さが伺われます。
また、日本の民法では親が子供を教育するために懲らしめることができる「懲戒権」を定めており、体罰を容認する口実になっているとの批判もあります。今後、「懲戒権」をなくすかどうかは検討される予定です。
どうすれば「教育虐待」を防げるか
重い教育虐待に至る親には「迷いがない」ことが多いといわれます。つまり、「子供のために」厳しくしつけるのが「正しい」と思い込んでいるのです。
子育ては簡単なことではありません。迷ったり悩んだりするのは当然のことです。迷う親は、子育てのやり方を見直すことができます。
自分の理想や夢を子供に押しつけていないか?将来への不安が抑えられられないだけではないか?子供を叱るとき、その裏にある自分の感情をしっかり見定めましょう。
子供が習い事をたくさんしているなら、子供が無理をしていないか、本人の希望と異なることをさせていないか確認しましょう。子供がしてはいけないことをしたら、叩いたり問い詰めたりするのではなく、時間をかけて話し合うことが大切です。
日頃から親子できちんと言葉にして気持ちを伝え合うようにし、それを続けていくことで、親からの一方通行な子育てから脱却できます。子供の気持ちを大切にし、親の思いを押しつけないように日々気をつけましょう。
※熊本日日新聞2019年9月5日「学びの交差点 教育虐待 防ぐには」