平成27年4月、文部科学省は性同一性障害や同性愛者など、性的少数者への配慮を求める通知を全国の学校へ出しました。
心と体の性の不一致に悩む子供たちには画期的な内容です。
今後、学校現場でどのような支援が実現するのか、性同一性障害への理解が広まるのか、関心が集まっています。
性同一性障害とは?
文部科学省が2017年、教職員向けに通知した文書によると、「性同一性障害」とは、「生物学的な性と性別に関する自己意識(性自認)が一致しないため、社会生活に支障がある状態と定義されています。
2014年度文部科学省が実施した調査では、肉体的な性別に違和感を持ち、学校に相談している児童生徒が全国に少なくとも606人はいることが分かっています。しかし、LGBT(性的少数者)の割合は人口の5%ほどと言われており、1学級に1~2人はいる計算になります。そのため、実際はカミングアウトできずに悩んでいる子供たちがもっと多くいると考えられています。
性同一性障害の子供たちは幼稚園や小学校低学年から違和感を持って生活していることが多いようです。学校へ入学すると様々な性の区分けがあります。男女で制服や水着が異なる、校則で髪型が決まっている、男女の更衣室やトイレの区別などが例で、性同一性障害の子供たちには毎日が苦痛の連続になりかねません。
「制服のスカートを履くのが嫌だ」「男女で部活動の内容が違うのはおかしい」「男子トイレを使いたくない」など、違和感に耐えられず不登校になる子供たちもいるようです。
はじめは無自覚でも、学年が上がるにつれ性同一性障害を自覚することが多く、学校生活の中で自分らしくいられないことへの不満や苦痛が大きくなるようです。
支援の事例
文部科学省は、教職員向けの通知で性同一性障害の児童生徒に対する支援の事例を示しています。
- 1) 服装
- 自認する性別の制服・衣服や、体操着の着用を認める
- 2) 髪型
- 標準より長い髪型を一定の範囲で認める(戸籍上男性)
- 3) 更衣室
- 保健室・多目的トイレ等の利用を認める
- 4) トイレ
- 職員トイレ・多目的トイレの利用を認める
- 5) 呼称の工夫
- 校内文書(通知表を含む)を児童生徒が希望する呼称で記す
自認する性別として名簿上扱う - 6) 授業
- 体育又は保健体育において別メニューを設定する
- 7) 水泳
- 上半身が隠れる水着の着用を認める(戸籍上男性)
補習として別日に実施、又はレポート提出で代替する - 8) 運動部の活動
- 自認する性別に係る活動への参加を認める
- 9) 修学旅行等
- 1人部屋の使用を認める。入浴時間をずらす
個別の事情に応じて支援を
文部科学省の調査で性同一性障害について学校へ相談していた606人について、約2割は他の児童生徒に知らせた上で学校生活を過ごしていましたが、約6割は基本的に他の児童生徒には知らせずに秘匿して学校生活を送っていました。
他の児童生徒に話すかどうかは、本人や保護者の意向を踏まえ、個別の事情に応じて対応することが求められています。
大切なことは、生徒本人に話を聞き、学校生活で何に困っているのか、具体的にどうしてほしいのか、希望を聞くことです。画一的な対応ではなく、個別の事情を考慮して、それぞれの生徒が学校生活で抱えている困難を解決するに具体的に何をすればよいのか、一緒に考えていきましょう。
※熊本日日新聞総合版2017年10月19日「違和感への対応 一緒に考える」