日本では妊娠・出産年齢の上昇に伴い、不妊治療を受ける人が年々増えています。
現在では不妊に悩むカップルは6組に1組と言われるほどです。2015年に行われた体外受精はおよそ42万件、赤ちゃんの約20人に1人が体外受精で生まれています。
進歩し続ける日本の不妊治療の現在を紹介します。
不妊治療の歴史は浅い
1978年、世界で初めて体外受精で生まれた赤ちゃんは、イギリスのルイーズ・ブラウンという女性です。日本で最初の体外受精の成功は1983年。卵子に精子を穿刺して受精させる「顕微受精」が日本で行われ、初めて赤ちゃんが生まれたのが1994年です。まだそれから20年あまりしか経っていません。
その後卵子や精子の凍結が行われるようになり、胚の凍結保存もできるようになりました。夫以外の精子を使う人工授精で生まれた赤ちゃんは1万人以上といわれます。また、2017年、日本国内で初めて、匿名の第三者の女性から卵子の提供を受け、夫の精子と体外受精させて妻の子宮に移植するという方法で妊娠に至り、話題になりました(それまでも姉妹や友人からの卵子提供による出産例はありましたが、匿名の第三者による卵子提供は初めてです)。
流産を繰り返す女性を対象に、体外受精した受精卵に染色体の異常がないか調べて子宮に戻す「着床前スクリーニング」と呼ばれる検査も臨床研究が始まっています。
不妊治療の分野は急成長中で、新しい治療方法が次々生まれていく変化が激しい分野です。その一方、出生前診断や受精卵の検査、代理母や遺伝上の母が別に存在することなどに関して倫理的な問題も指摘されており、法整備が追いついていない現状があります。
不妊の原因はさまざま
不妊治療の進歩とともに、不妊の原因が多く解明されるようになりました。
不妊治療というと女性が受けるイメージがありますが、不妊原因の半数は男性側の問題です。妻が何年も不妊治療をしていて妊娠に至らず、夫が検査したら不妊の原因が判明したということも珍しくありません。
男性不妊の原因は、精液中に精子が少なかったり見当たらない、精子はあるが動きが鈍いなどの「造精機能障害」が全体の80%以上を占めます。その他、精子が外に出ていく通路に問題がある場合や、精嚢炎、前立腺炎、勃起障害や射精障害などがあります。
女性不妊の原因はホルモンバランスが崩れて排卵がうまく起こらない、卵管が詰まっている、子宮に病変・奇形がある、などさまざまです。中には精子を異物と認識して攻撃する抗体を持っているために妊娠できない人もいます。しかし、どんなに調べても今の医学では原因が特定できない人も少なくありません。
ただ、不妊の大きな原因の一つが加齢であることははっきりしています。卵子の老化により、35歳を過ぎると妊娠率が急激に下がります。逆に流産率は上昇し、ダウン症などの染色体異常が増えていきます。 女性だけでなく、男性側の加齢も無関係とは言えません。男性の年齢が上がるほど精子の生産率が減少するという報告があります。
男性も不妊治療に協力しよう
不妊治療は女性だけの問題ではありません。自然にしていてもなかなか子供が授からない場合は、男女とも検査を受けることが大切です。不妊の原因が分かれば、それに合わせて効果的な治療方法を選ぶことができます。
多くの場合、女性側に身体的・精神的に負担が重い治療ですので、夫の協力は欠かせません。
※熊本日日新聞総合版2017年3月23日「第三者提供卵子で出産」
※熊本日日新聞総合版2017年9月12日「体外受精 最多42万件」
※『先生!私は妊娠できますか?』中村はねる 清水真弓 著、主婦の友社、平成29年7月31日