モーリス・センダックは、世界でもっとも人気の高い絵本画家の一人です。
有名なのは『かいじゅうたちのいるところ』ですが、その他にも印象的な心に残る絵本をたくさん描いています。
今回はセンダックの絵本から、10作ご紹介します。
かいじゅうたちのいるところ
モーリス・センダックの代表作で、世界中で多くの支持を得ている絵本です。映画化もされたことから、ご存じの方も多いでしょう。
一度見たら忘れられないインパクトのある「かいじゅう」たちが登場します。ギョロギョロの黄色い目玉が強烈です。
子供の自由な想像力と迫力のある絵が読者を引き込みます。母親の愛情もしっかり描かれていて、微笑ましいです。
ミリー 天使にであった女の子のお話
原作者のヴィルヘルム・グリムは、19世紀に民話収集に努め、それが現在も「グリム童話」として世界中で読まれている人物です。
この物語は、ヴィルヘルム・グリムが、母を亡くしたミリーという少女にあてた手紙に添えられていました。実に150年以上経って発見されたグリムの物語。その物語に、世界的な絵本画家であるモーリス・センダックが5年がかりで絵をつけたというのですから、物凄い情熱です。
絵が芸術的で、息をのむほど美しく、圧倒されます。キリスト教の信仰が物語の隅々まで感じられる絵本です。
まどのそとのそのまたむこう
船乗りのパパが海に出ている間、ママと赤ちゃんと一緒に残される小さな娘「アイダ」。
アイダは、ゴブリンにさらわれた赤ちゃんを取り戻すために奮闘します。
「パパがいない間、私がしっかりしなくちゃ!」とアイダは思っているのでしょう。実に勇ましく、頼もしいです。くるくる変わるアイダの表情にも注目です。
子供の自由な想像力がのびのびと描かれた絵本です。少し不気味で、怖いような魅力があります。
ピエールとライオン ためになるおはなし
この絵本を読むと、2歳を過ぎた頃にやってくる子供の反抗期を思い出します。
ピエールが言うのはただ一つ。「ぼく、しらない!」という言葉。親が何を言ってもこの言葉しか返ってきません。このセリフを言うときのピエールの顔がまた、なんとも憎らしくて、困ったものです。でも、この年頃の子育て中は、同様の悩みを抱えた親が多いものです。是非、そんなご家庭で読んでいただきたい1冊です。思いがけない展開にきっとびっくりしますよ。
まよなかのだいどころ
センダックの迫力ある芸術的な絵とコミック的な手法が合わさって、独特の魅力を醸し出している絵本です。子供ののびのびとした自由な想像力が感じられます。
同じ顔をした3人のパンやさんたちが登場するのが印象的です。不気味で、不思議な魅力のあるキャラクターです。
絵に力があり、子供たちを引きつける人気の絵本です。
とおいところへいきたいな
『かいじゅうたちのいるところ』のイメージを持ってこの絵本を開くと、少し意外な気持ちになるかもしれません。シンプルな絵と少ない色遣いで、全く異なる雰囲気の絵本だからです。
母親に赤ちゃんが生まれたときの、上の子の寂しい気持ちを余すところなく表現した秀作です。主人公と同じように現状に不満がある動物たちが集まってきますが、その動物たちの表情が擬人化されていて面白く、流石センダックだなと思います。皆さんが思う「とおいところ」とはどんなところでしょう?考えてみるのも面白いと思います。
ヘクター・プロテクターとうみのうえをふねでいったら マザー・グースのえほん
ヘクター・プロテクターとうみのうえをふねでいったら マザー・グースのえほん(モーリス・センダック 作、冨山房、1978年)
2話収録ですが、どちらもイギリスやアメリカで親しまれているマザー・グースの童謡として知られているお話です。しかし、センダックは主人公を男の子にし、想像を膨らませて独自の世界を作り出しています。
男の子のやんちゃな一面、勇気や冒険を愛する心が描かれているところは、『かいじゅうたちのいるところ』に通じるものがあります。
不思議な魅力で子供たちを引きつける絵本です。
うさぎさん てつだってほしいの
絵のタッチが柔らかく、優しい木洩れ日や美しい自然の情景が心に沁みます。母親に渡す誕生日プレゼントについて一生懸命選ぼうとしている女の子と、その相談に乗ってあげる「うさぎさん」が登場します。このうさぎ、すらりと手足が長くて、仕草がちょっと年上のお兄さんのよう。独特な雰囲気で印象に残ります。
波のように繰り返されるフレーズが耳に心地よく、読むと穏やかな気持ちになれます。愛情に満ちた絵本です。
こぐまのくまくん
全5巻あるシリーズの1作目です。
「かあさんぐま」と「くまくん」のやり取りが微笑ましく、読むと温かい気持ちになります。ここに登場する「かあさんぐま」は愛情深く、子供に理解があります。そっと見守りながら子供が納得するまで付き合う姿勢は、親として見習いたい気持ちにもなります。子供にも母親にもおすすめの絵本です。
きみなんか だいきらいさ
きみなんかだいきらいさ(ジャニス・メイ・ユードリー 文、モーリス・センダック 絵、冨山房、1975年)
子供って、友達と喧嘩をしたかと思うと、いつの間にか仲直りしていることがありますよね。大人にはなかなかできないことです。きっと、一緒に遊びたくて遊びたくて仕方がないのでしょう。
シンプルな絵ですが、「ジェームズ」と「ぼく」の表情に注目です。生き生きとしていて、喜怒哀楽が細やかに描かれています。子供の心理をよく表現した傑作絵本です。
小型の絵本なので、持ち運びしやすく気軽に読めるところも長所です。
編集後記
センダックは絵本によって随分タッチが異なります。芸術的な息を呑むほど美しい絵も描けば、作品によってはコミカルな絵、シンプルな絵、情緒的な絵など描き分けています。
子供の豊かな想像力、微妙な心理などを描いた作品は傑作です。気に入った作品があれば、是非、子供に読み聞かせする絵本の中に加えて下さい。