2019年2月に亡くなった絵本作家の上野紀子さんは、長年活躍され、数多くの作品を遺しています。
代表作は夫であるなかえよしをさんが文を担当し、上野紀子さんが絵を担当した『ねずみくんのチョッキ』で、これはシリーズ化され多くの続編が出版されています。子供たちに大人気のシリーズです。
他にも、上野紀子さんは他の作家さんとコラボして多く作品を出しています。絵本ごとに異なる上野紀子さんの絵に注目しながら、是非作品を楽しんで下さい。
ねずみくんのチョッキ
30巻以上ある「ねずみくん」シリーズの1冊目です。
とてもコミカルで笑いを誘う内容です。お母さんが編んでくれたねずみくんのお気に入りの赤いチョッキ。でも次々に他の動物が現れて「ちょっと着せて」と言うものだから……。
窮屈なチョッキを無理に着るときの動物たちの表情に注目です。次はどんな動物が登場するのか、ページを開きながらワクワクします。
大きいサイズの絵本と、持ち運びしやすい小さなサイズの絵本があるので、お好みで選んでください。
ちいちゃんのかげおくり
小学校の教科書にも載っている、よく知られた絵本です。
子供たちは、自分と年の近い「ちいちゃん」が経験した空襲と彼女の死を、どう受け止めるでしょうか。戦争中は、同じように亡くなる方が大勢いたのです。
心が痛くなる内容で、だからこそ反戦の気持ちが強くなります。
ちいちゃんの無垢な目がいつまでも忘れられません。
さよなら さんかく またきて しかく
さよなら さんかく またきて しかく(松谷みよ子 あかちゃんのわらべうた、上野紀子 絵、偕成社、1979年)あかちゃんのわらべうた(5)
赤ちゃんや1~2歳くらいの小さな子におすすめの絵本です。
みんなが知っているわらべ唄とはちょっと違う、松谷みよ子さんならではのわらべ唄です。遊び心が楽しく、「わらべ唄」を難しく考えずに楽しんでほしいという作者の気持ちが伝わってきます。
上野紀子さんが描く絵の色彩がはっきりしていて小さい子にも分かりやすいです。ユーモアがあって楽しい絵です。
是非声に出して親子で楽しんで下さい。
ゆきひめ
雪の精にまつわる多くの言い伝えや民話を参考に、大川悦生さんが想像でお話をふくらませた物語です。民話の語り口、昔ながらの方言の響きが耳に心地よく響きます。
上野紀子さんの優しいタッチの絵が、雪深い村の風景を美しく幻想的に描き出しています。
民話の色々な要素がつまった心温まるお話です。
きこえてくるよ
ヴァイオリンを習い始めたルミちゃんは、まだうまく弾けません。そこに仲良しの動物たちがやってきて「へんなおと」なんて言ってしまったからもう大変。
ルミちゃんは何とかして動物たちに音楽を理解させようとしますが、動物たちに人間の音楽を理解させようとしても無理なことです。
でも動物たちはルミちゃんにとても大事なことを教えてくれます。是非、動物たちが知っている音楽に耳を澄ませてください。きっと、とても穏やかな気持ちになれます。
ふうちゃんの詩
童謡詩人金子みすゞは、愛娘ふさえ(当時3歳)の片言のおしゃべりを慈しみ、手帳に書き留めていました。それを見て感動した上野紀子さんとなかえよしおさんが、その中から13篇を選んでこの絵本にしました。
「ふうちゃん」の言葉のひとつひとつがキラキラ輝いています。そして同時に、その言葉を大切にいとおしんだ金子みすゞの優しい眼差しが絵本を通して感じられます。
上野紀子さんが描く「ふうちゃん」の生き生きとした表情にも注目です。
のんびりきかんしゃポーくんとサーカス
のんびりきかんしゃポーくんが、サーカスの動物たちを助けるお話です。
「ねずみくん」シリーズに登場する動物たちと似た動物たちが登場します。
きかんしゃポーくんの表情がころころ変わるので見ていて面白いです。意外な結末が待っています。
4~5歳くらいのお子さんにおすすめです。
ねこのシェリー
この絵本は、1979年に偕成社から出版された『のらねこの詩』を加筆訂正し改題したものです。
「ねずみくん」シリーズで上野紀子さんを知っている方には、絵のタッチが全く異なるので驚かれるかもしれません。写実的で、毛並みの柔らかさまで伝わってくるような可愛い2匹の猫が登場します。
野良猫と飼い猫の立場から交わされる会話を読んでいくうちに、幸せとは何か考えさせられます。
おやすみなさい
「あまんきみこのあかちゃんえほん」シリーズの1冊です。
同じフレーズの繰り返しが多く、小さい子にも分かりやすい内容です。お子さんのおやすみ前に読んであげると、安心して気持ちよく眠れそうです。
上野紀子さんが描く花咲く夢の野原が、柔らかい光で眠りを誘います。
短い絵本なので、「これを読んだらおやすみ!」の習慣をつけるのも良いですね。
おはじきの木
『ちいちゃんのかげおくり』同様、空襲で亡くなった小さな女の子の話です。こちらの絵本では、戦争から帰ってきた女の子の父親目線で描かれています。
亡くなったのは5才の女の子。平和な世の中であれば、友達と楽しくおはじきをしていたはずです。平和な生活を送れることが、どんなにありがたいことか。癒されない悲しみと苦しみを描くことで、戦争の過ちを繰り返してはいけないことを読者に伝えています。
編集後記
上野紀子さんの描く絵は、作品ごとに全く異なっていて驚かされます。「ねずみくん」シリーズに代表されるコミカルな絵、『ちいちゃんのかげおくり』のような写実的な絵の他、作品によって同じ作家とは思えないほど絵のタッチが異なるのが上野紀子さんの魅力です。
特に、幼い女の子を描くとき、その生き生きとした豊かな表情が読者の心に強く残ります。