社名が語る保険の歴史
ここ十年で大手損害保険会社の統合が相次ぎ、「○○海上火災」とか「△△火災海上」という社名の保険会社が少なくなりました。あまり気になりませんが、よく考えると「自動車保険が主力なのに、何故?」と思ってしまいます。実はこれ、損害保険の歴史と密接な関係があります。ちょっとした雑学ですが、知っておいて損はないでしょう。
「海上」の理由
損害保険といえば自動車保険の他に火災保険をイメージするので、社名に「火災」という言葉が含まれていても違和感はありません。でも、「海上」という言葉はなんだか違和感がありますよね。
日本に初めて保険会社が誕生した19世紀。船舶は現在のように頑丈ではありませんでしたし、海洋技術も高精度ではありませんでした。なので、貿易で大きな船舶が難破しようものなら損失は莫大です。船舶の所有者だけでなく、荷主など関係している人も損害を被ります。そこで登場したのが船舶だけでなく、積荷なども補償する海上保険です。当時の保険業法という決まりで、取り扱う会社は社名に「海上保険」という言葉を入れなければなりませんでした。
ただし、大型船を所有して貿易を行うというのは庶民には無理ですし、海難事故を補償できる財力がある組織も限られてきます。そのため、先発の損害保険会社は「○○海上火災」という社名なのです。また、現在でも日本は船舶保険のシェアが世界二位ですから、当時はとても画期的なものが登場したと驚かれたでしょうね。
火災保険の登場
どこの国でもその国の文化を感じさせる建造物は美しいものです。日本は今でこそ鉄筋コンクリートの建物が多くなりましたが、高度成長期までは木造住宅がほとんどでした。つまり、燃えやすいということです。
もし、火事で一夜にして家が燃えてしまったらどうしますか?「保険会社に連絡する」と判断するでしょう。しかし、その保険が無いのです。お先真っ暗。ゲームのようにセーブ機能があれば、火事が起こる前まで遡って再開したい気分でしょう。そこで誕生したのが火災保険というわけですね。この時期に参入してきた損害保険会社は「火災海上」という名称です。
意外と歴史が古い自動車保険
現在、各損害保険会社の主力商品は自動車保険です。海上保険や火災保険の方が歴史は古いのですが、日本で自動車保険が誕生したのはなんと100年も前なのです。この新参者の自動車保険が損害保険の主役になったのには二つの要因があります。
- 海上保険、火災保険ともに市場が飽和状態になった
- 自動車が生活になくてはならない存在になった
長引く不景気で、所有している車のクラスが社会的ステータスに影響する風潮も薄れましたし、所有しないことが賢い選択という価値観も生まれましたが、それでも主力商品であることに代わりはありません。
保険にも新種がある
損害保険会社が取り扱う保険は、海上・火災・自動車だけではありません。社会が発展すると同時に色々なリスクが付きまとうようになりました。これらを補償するためには新たな保険を作らなければなりません。発売からほどなくして消えてしまったものも合わせると、その数たるやかなりのもので、それらをひっくるめて新種保険と呼んでいます。
おわりに
保険会社の名前に疑問を覚える人は少ないと思いますが、実はちゃんと理由があって、表面だけさらっても様々な背景があるんですね。飲み会で話題にするには堅苦しい内容ですが、頭の片隅に置いていただけると幸いです。
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<ライター:森村仁>