物語はこんな風に始まります。「むかしむかし、ずっといなかの しずかなところに ちいさいおうちが ありました」。
しっかり丈夫に建てられたこの「ちいさいおうち」が主人公です。場面はこのおうちを中心に、月日の流れが描かれます。
季節の移り変わりが美しく、のどかに年月が過ぎていくのかと思いきや、遠くにあった街の光が次第に「ちいさいおうち」に近づいてきます。「ちいさいおうち」の周辺でも都市化が始まり、広い道路が整備されて、アパートメント・ハウスや学校などが次々と建てられていきます。
電車や地下鉄がすぐ近くを通るようになり、周りを大きなビルに取り囲まれた「ちいさいおうち」はしょんぼりしてしまいます。夜はお月さまも星も見えません。あまりの環境の変化に驚くばかりです。
街を嫌い、田舎のことを夢に見る「ちいさいおうち」。そこへその「ちいさいおうち」を建てた人の孫の孫の、そのまた孫にあたる女の人が現れて……。
1943年、カルデコット賞に輝いた不朽の名作です。
※『ちいさい おうち』バージニア・リー・バートン作、いしいももこ訳、岩波書店、1965年