誰が言ったか知りませんが、「うまい話」と「儲け話」には気をつけなければなりません。
「契約している火災保険でリフォームができちゃうんです!」という話を聞いたことはありませんか?もしくはそういった内容で営業の電話がかかってきたり、訪問があったり。今回はそんな火災保険にまつわるお話です。
形が無いから難しい
保険は形が無い商品です。なので、生命保険、自動車保険、火災保険、その他新種と呼ばれる保険の契約内容をしっかり理解している人は少ないと思います。仮に保険金額などは把握していても、仕事で扱っていない限り支払われる条件まで把握するのは困難です。
火災保険は建物の補償と家財の補償がありますが、失火や強烈な自然災害に見舞われなければ「保険会社に連絡してみよう」とは思いません。そもそも、住宅ローンを組むときに担保として契約させられたという方が多いので、別に不思議なことではありません。賃貸のオーナーへの借家賠償も、水漏れなどはともかく、模様替えで家具を壁にぶつけてへこませても「あーあ、やっちゃった」と気分もへこんでおしまいです。
この、保険の特性と私たちの心理を利用した悪質な詐欺行為が近年増加しているのです。
一見親切、でも何かがおかしい
お子さんは遠方に住み、現在は二人暮らしのAさん夫妻がいたとします。
ある日奥さんが庭先でガーデニングをしていたところ、見知らぬ男性が「二階の外壁が崩れかけていますよ」と教えてくれました。
しかし、奥さんが見てもよくわかりません。すると、男性は「無料で修理できます。よかったら見させてください」と持参したハシゴで屋根に上りました。
しばらくすると男性が下りてきて、外壁だけでなく屋根も台風で傷んでいたと言います。奥さんは怪しいと思い、住めるならリフォームする必要はないと断りました。
ここで男性が「この前の台風のせいです。火災保険を使えば無料で修理できるんです」と切り返してきました。なるほど、無料で修理できるという根拠はそういったことだったのです。
最初は怪しいと思っていましたが、男性の話を聞いていると親切で、お年寄りが保険金の請求をするのは大変なので代わりに手続きをするとまで言ってくれました。
さて、とても怪しいのですが、台風による損害は火災保険の補償範囲なので理屈は通っています。
では、その後Aさん夫妻がどうなったかです。
知らぬ存ぜぬは通用しない?
後日、男性は見積書と契約書を持参し、修理を担当するという業者をともなって再訪してきました。契約書は、その損害を保険会社に請求代行するというものです。
奥さんは気の毒になって気持ちだけでもとお金を包みましたが、男性は「高齢者支援をしていますのでお気遣いは無用です」と受け取りません。
それからしばらくし、保険会社から「経年劣化による損害なので、支払い対象外です」という連絡がありました。それどころか、嘘の見積もりをしているという理由で契約も解除されてしまいました。
Aさん夫妻は寝耳に水です。自分たちは全く悪意がないのに保険金詐欺を疑われてしまったのですから。「そんなつもりは無かったし、知らなかった」と説明しても取り合ってくれません。親切な男性はというと、それから一切連絡が取れなくなってしまいました。
保険会社にしてみれば、代行とはいえ、Aさん夫妻が保険金を不正に請求したことに代わりありません。知らぬ存ぜぬでは通用しないのです。
今回の問題点
今回のようなケースの問題点は、以下の二点です。
・保険金請求は契約者、または代理店が行うべきである。
・見積もりの内訳を確認していない。
いずれも至極当然のことですが、お年寄りが屋根に上るのは危険ですし、煩雑な手続きも困難ですから親切にされると信じてしまっても仕方がありません。「高齢者支援をしています」とはものは言いようです。
また、「この損害は台風のせいにしておきましょう。バレないですから」と持ちかけたならともかく、状況からして奥さんは台風による被害であることを否定できません。一種の詐術ですね。契約書も一体どんなことが書かれいたか考えると薄ら寒い気持ちになりますね。
なお、火災保険の支払い対象になる損害は、主に「急激かつ偶然な外来の事故」によるもので、損害保険登録鑑定士というちゃんとした資格を持った人が確認します。
おわりに
いかがでしたか?
ちょっと長くなってしまいましたが、こういった高齢者をターゲットにした詐欺行為に「どうしてだまされるのか不思議だ」と思う方も少なくないので、ちょっと具体的にしてみました。事実、最近では手口が巧妙化しており、日本損害保険協会でも注意喚起しています。
勿論、火災保険の利用を勧めてこられたら全て詐欺とは断言できませんが、まずは加入している保険会社や代理店に相談してみましょう。特に台風一過や異常気象のあとは要注意です。