最近のニュースやインターネットの記事、新出版の書籍などで、『親の家を片付ける』というテーマを大変多く見かけます。
しかし、この流行は決して嬉しいものではありません。何故なら、「実家の片付けの悩み」が問題となって流行しているからです。
どうしたら上手に両親の家を片付けられるのか? 実家の片付けの問題と、親家片を成功させる方法について考えてみましょう。
整理整頓は現代社会を生きる課題
一昔前までは、「片付け」がそれほど問題になることはありませんでした。モノが不足していた時代では、片付けに困ることがなかったからです。
しかし今や、100円ショップで大抵のモノが揃い、どの家にもたくさんのモノが溢れています。自分で買うモノの他に、戴き物や郵便物、コンビニ袋・弁当などの包装紙など、モノは見境なく家の中に侵入してきて、うっかりモノの処分を怠ると、あっという間にゴミとして溜まってしまいます。
モノを大切にする人ほど、その片付けの問題に悩まされるというジレンマに陥ってしまっているようです。
私達は、「モノを大切にするとはどういうことか?」を、もう一度ゼロから考え直す必要があるのではないでしょうか?『捨てるなんでもったいない』という呪縛から開放されない限り、モノがゴミと化して溜まり続けてしまいます。
- モノが使われずにゴミになるなんて、なんてもったいないことでしょう!
- 不要なモノが多いために暮らしにくいなんて、なんてもったいないことでしょう!
- 便利で大切なモノが不要品に埋もれて使えてないなんて、なんてもったいないことでしょう!
必要なモノを大切に使うために、不要なモノを捨てるという考え方です。『使うために捨てる』のです。
日本の新時代にふさわしい『もったいない文化』を再形成しなければならない時期に来ていると思います。モノを整理整頓し、不要なものは片付けて処分し、必要なモノは使いやすいように整理収納していくことで、暮らしやすい住環境を整えることができます。
このような時代背景から、整理収納アドバイザーやライフオーガナイザーといった専門資格ができ、片付けや収納の仕事とするプロの方々が活動を開始しています。また、片付けや整理・収納の関する理論や技術、実践方法などが編み出され、片づけ本はベストセラーの常連となっています。更には、遺品整理や生前整理・福祉整理など、人生の節目における片付けサービスも注目を集めています。次節では、それらをざっと紹介します。
捨てる技術
2000年に出版された大ベストセラーの本。新装・増補版が出ています。
著者の辰巳 渚(たつみ なぎさ)さんは、片付けアドバイザーというわけではなく、家事や住まいを中心に「生きかた」をテーマとした文筆家であり考現学者です。モノ余りの時代の新しい生活哲学を提唱しており、物質的に豊かな世の中で、どうしたら楽しく豊かに生きていけるかを提言しています。
断捨離
断捨離(だんしゃり)は、モノを減らすことで、暮らしや人生に調和をもたらす生活術です。ヨガの、「断行(だんぎょう)」、「捨行(しゃぎょう)」、「離行(りぎょう)」を応用し、不要なモノを断つ(捨てる)ことで、モノへの執着から解放され、身軽で快適な人生を送るという考え方・生き方と呼べるもので、単なる片づけ術とはちょっと違っています。
断捨離の著者のやましたひでこさんも、クラター・コンサルタント(がらくたコンサルタント)という肩書で、セミナーや講演、執筆活動が中心のようで、現場での片付け作業をしている片付けアドバイザーではないようです。
不要なモノを捨てることを「断捨離した」というくらいに有名な言葉になっていますね。
ときめく片付け
こんまり流で有名な「人生がときめく片づけの魔法」。 ご存知、こんまり こと近藤麻理恵さんの著書です。
片付けコンサルタントとして、テレビなどのメディアにも出演し、ときめく片付けの魔法学校や、ときめき片付けインストラクターを養成する「日本ときめき片付け協会」の運営などを手掛けているようです。(元々は、ハウスキーピング協会の整理収納アドバイザーだったと記憶していますが、こんまりさん自身で資格の協会を立ちあげたのですね。)また、有名になりすぎて(?)個人向け片付けレッスンは新規の受付停止中のようです。
ただ個人的には、現場で頑張っている片付けアドバイザーを応援しているので、このような方向性のこんまりさんはちょっと残念です。
遺品整理
映画化された『アントキノイノチ』(さだまさしの小説)は、遺品整理業者がモデルになっています。
個人的には、本木雅弘さんが演じた『おくりびと』の映画が好きです。
遺品整理の仕事は、ゴミ処分をしている便利屋系の業者も多く引き受けています。遺品整理の専門業者も多く、特殊洗浄が必要なケースでは専門業者の方が安心でしょう。ただこの遺品整理業をするのには、葬儀屋さんが一番良いポジションにいると思います。「遺品整理士認定協会」という資格もあります。
「遺品整理」をネットで検索すると、たくさんの業者サイトが出てきます。個人便利屋から、中にはクロネコヤマトのような大企業まで。超高齢化社会の日本では、遺品整理のニーズが多いのでしょう。
葬儀と同じく、この遺品整理も、人生のうちでそうそう何度も経験することではないため、勝手がわからないまま行ってしまう人も多いと思います。内容が内容だけに、相見積もりや業者比較もしずらいサービスでしょう。
生前整理
遺品整理は、残された遺族が片付けをするのですが、生前整理は、生きているうちに自分で片付けるケースです。「終活」という言葉も一時期よく使われましたね。最近では、実家の片付け・親の家の片付けという言葉をよく耳にするようになり、子供が親のために片付けるパターンも増えてきていると思います。
いずれにしろ生きているうちの問題なので、生前整理に関する書籍などもたくさん出版されてます。
この記事を書くにあたって、「生前整理普及協会」という一般社団法人があり、生前整理アドバイザー認定講座なるものが存在することを知りました。いろんな協会がたくさんできて民間資格が乱立してしまうと、本来の資格がもつ信頼性が薄れてしまうようで、個人的には心配です。
老前整理
老前整理は、くらしかるの坂岡洋子さんが提唱しているもので、老いる前の体力のあるうちに、身の回りのモノを整理し、老後をシンプルで心地よく暮らせるように整理することです。
老いへの備えは、モノの片付けるだけではありません。また、老いの準備だけでなく、人生のそれぞれに節目には、片付けをしたほうがよいと思います。
福祉整理(福祉住環境整理)
生前整理や老前整理は、本人が自分の為に整理をするという考え方がメインです。生前整理ならば、生きているうちに自分の身の回りを整理することですし、老前整理ならば、老いる前に自分で自分の身辺をすっきりと片付けてシンプルにしておくことです。
これに対して、福祉整理は、老いて体が不自由になった高齢者(親やの家族)の為に、整理をすることです。ここでいう整理とは、片付けのみならず、高齢者が住みやすい住環境に整えることも意味しています。
高齢者や障害者に対して住みやすい住環境を提案するアドバイザーの資格として、東京商工会議所が「福祉住環境コーディネーター」の認定資格試験を実施しています。
ゴミ屋敷と高齢者問題
ゴミ屋敷とは、生活に支障がでるほどゴミで溢れてしまった家のことです。足の踏み場もないほどのゴミ(不要品)で部屋が溢れている状態で、トラック車輌を使ってゴミ処分をする必要があるほどです。
しかし考えても見て下さい。週2回燃えるゴミと週1回燃えないゴミを出しているのですから、何らかの事情でゴミ出しが出来ない状態になってしまうと、月に10袋以上のゴミが溜まってしまいます。ゴミが溜まってくると、ついつい片付けから目を背けたくなってしまい、一年間溜め込んでしまうと100袋以上のゴミ。こうなるともうゴミ集積所にゴミ出しする程度では片付きません。多くのゴミ屋敷は、何年もゴミ出ししていない状態にありますので、ゴミ袋の数は何百袋という単位です。これらを片付けるのには、2tトラックが必要になってきますし、それだけのゴミを分別するのも重労働です。
もし一人暮らしの高齢者が、体が不自由になり気力も失せ、ゴミ出しができなくなってしまうと、あっという間にゴミ屋敷になってしまいます。他にも、心の病や精神的な問題、発達障害などの理由で、片付けがに苦手な人がゴミ出しできない状態に長く陥ってしまうと、若い人でもゴミ屋敷になってしまいます。
捨てるモノの量よりも、家に入ってくるモノの量が多かったら、当然ですが家の中にモノが溢れ出します。ゴミ屋敷とまでは行かないまでも、物置や屋根裏部屋が昔のモノで一杯で手が付けられず、押入れの中もモノが詰め込まれて収納というよりトランクのようになってしまっている家は、多いと思います。
汚部屋とセルフネグレクト
ゴミで溢れた部屋は、掃除をするのも困難です。そのため、どうしても部屋が汚くなってしまいます。頑固にしみになってしまった場合、クリーニングも大変です。
汚部屋やゴミ屋敷になってしまう1つの原因として、セルフネグレクトがあります。セルフネグレクトとは、自己放任のことです。生活をする意欲・能力を喪失している状態なので、健康や安全までも損なってしまいます。必要な食事をとらず、医療を拒否し、不衛生な環境で生活を続け、家族や周囲から孤立し、孤独死に至る場合もあります。家事を放棄しているので、ゴミは溜まり続け、部屋は汚れていきます。
セルフネグレクトの防止には、地域社会による見守りなどの取り組みが必要ですが、汚部屋になるのは危険信号の一つでしょう。
シニアが片付けられないのは仕方がない
シニアは、『もったいない文化』で生まれ育ってきた世代なので、モノを大切にする(=捨てない)ということが身に染み付いていることがあるかも知れません。加えて、気力も体力も衰えてきますから、「いつか片づけよう」「要らないものをいつか整理しよう」と思っていても、そのいつかがやってくるまえに、片付けられなくなってしまうケースも多いようです。ここに、親の家が片付かない原因のひとつがあります。
- もしかしたら使うかも知れない
- 何々をするときにはきっと必要だ
- 大切な人からの戴き物を捨てるなんでできない
- 思い出の品は捨てられない
モノが捨てられない理由は、様々です。長い人生を生きてきたシニアであれば、なおさらでしょう。
しかし、人生のライフステージにおいて、シニア時代では生活に必要なモノも以前に比べて減っているはずです。子育てを終え、仕事はリタイアし、活動量も減少し、身軽になって生きていけるようになっているはずだからです。
新しく快適なシニアライフを満喫するために、高齢でも暮らしやすい空間を作るべきと思います。
片付けや整理整頓がもたらす恩恵
片付けや整理整頓は、決して雑事ではありません。掃除もそうですが、そもそも作業をすることが目的ではありません。
一度きりの人生を、快適な空間で生きていく。
そのために、片付けや掃除をするのです。人間は、環境の動物といわれています。その人間が、ゴミに埋もれた汚部屋で過ごしていたら、どうなるでしょう? また、モノが整理整頓された家は、生活動線が最短になり、とても楽に過ごしやすくなります。
- すぐに取り出せるので楽
- 探しものが減り、自分の時間が増える
- 忘れ物が無くなる
- 家の中が歩きやすくなる
- 家の中での事故が減る
- 家が好きになり帰りたくなる
- 人を招待したくなる
- 毎日を気分良く過ごせる
このように片付けや整理整頓の恩恵は、合理的なメリットだけでなく、精神的なメリットも大きのです。
両親の家の片付けの難しさ
他人のモノを片付けることは、とても難しいものです。「全部捨てて良い」のなら話は簡単です。しかし、捨てて良いものと駄目なものがある場合、判断基準がないと片付けが全く出来ません。
実家にある両親のモノを片付けるのも同様の難しさがあります。親の家を片付けなければならない場面も様々でしょう。
- 親が片付けを望んでいるけれど、いざ捨てるとなると駄目だというケース
- 親は片付けをしてほしくないが、もはや片付けなくては生活に支障をきたすケース
- 親が満足に動けなくなったり認知症になったりして、誰かが代わりに片付ける必要があるケース
- 親が亡くなったとき、家の中がモノで溢れていたケース
いろいろあると思いますが、とくに親が「片付けられない人」だった場合は、更に話が難しくなります。本人でさえ片付けられないのに、その本人が納得行くように、他人が勝手に片付けるのは至難の業です。
また、老々介護の問題と同様、「年老いた親の片付けをするのも高齢者」ということもあるでしょう。特にモノで溢れている部屋の片付けは、気力も体力も必要な重労働です。
親の家を片付ける際のトラブル
親子といえども、片付けの判断基準が同じとはいえません。親にしてみれば、子供だからこそ分かって欲しい(捨てないで欲しい)と、勝手に捨てられて余計に怒ってしまうかもしれません。
- 捨ててほしくないものを捨てられた
- モノを収納する位置が違う
- 必要なものがどこにあるか分からなくなった
- 片付けられたら、生活しにくくなった気がする
実は不慣れなだけで、本当は快適に暮らせる空間になったとしても、その片付け方が自分の思い通りではなかった以上、不満が発生してしまいます。
ただでさえ大変な親の家の片付けですが、作業的な問題だけでなく、「親との衝突」は非常に悩ましい問題です。勝手に片付けたり、勝手に捨てたりしてしまっては、口論になり、親との関係もぎくしゃくしてしまうでしょう。
この実家の片付け問題の対処で、一番大切なことは、しっかりとコミュニケーションを取ることでしょう。そして、「説明と同意」を怠らないことです。
親の了解・同意を得ることによって、親も安心するわけです。これを、インフォームドコンセントと言います。親の家を片付けるわけですから、自分だけの判断で決定はできません。親の自己決定権を尊重する必要があるのです。
片付けの先生と呼べるプロフェッショナル達
整理収納アドバイザーは、片付け・整理・収納の資格としては一番有名で、ハウスキーピング協会が認定している資格です。メディアでも有名な方や、多くの著書を出版されている方、セミナーや講演で活躍している方、現場での片付けレッスンをされているかたなど、様々です。
ライフオーガナイザーは、アメリカでは一般的に認知されている職業で、思考と空間の整理のプロの資格です。本国アメリカのプロのオーガナイザーの概念やノウハウを、日本の事情に合わせて日本人向けに体系化し資格認定制度が構築されており、すでに20年以上の歴史のある職業です。
他にも、雨後のタケノコのように多くの民間資格が出てきているようですが、やはり、しっかりと実績を積み上げていて、認知度も高く信頼のおける協会が運営している認定資格の片付けアドバイザーを選ぶのが良いでしょう。
ゴミ屋敷と化した親の家の片付けも大丈夫?
実家がゴミ屋敷のようになり、トラック車輌でのゴミ処分が必要なくらい不用品で溢れているケースでは、まずは明らかなゴミをすべて処分することろから始めねば、手が付けられません。
ここでの注意点は、自治体の許可を得た一般廃棄物運搬処理業者のみが、家庭ゴミの収集・運搬・廃棄が可能なことです。無許可・無認可の業者は、違法業者です。もちろん、自分でゴミをクリーンセンターに持ち込んで廃棄できるのであれば、何も問題はありませんが。。。
一番良い方法は、自治体に相談してみることでしょう。自分の部屋がゴミ屋敷の場合、なかなか相談ができないかも知れませんが、実家の片付けであれば大丈夫でしょう?(親にバレると怒られるかもしれませんが…)
もしかしたら、大量ゴミの収集運搬の手助けをしてくれたり、運搬処理業者を紹介してくれるかもしれません。何故なら、家庭ごみは本来、自治体の責任で処理すべきものだからです。
ただし、ゴミの分別・袋詰めまではしてくれませんから、ここは便利屋さんなどに助けてもらうのも良いと思います。ゴミ屋敷の片付けの相談に対応してくれるアドバイザーもいると思います。あるいは、片付けのコーディネートや、ゴミ処分後の整理収納の作業で、アドバイザーに依頼するのも良いでしょう。
<参考>実家の片付け本
両親の家の片付けの参考記事
実家がモノだらけ・・・一体何が・・・
放っておくと・・・キケンがいっぱい
- 実はモノで溢れているが親は片付いていると思っている
- 片付けの話のたびに険悪に聞く耳もたない
- 私がゴミ袋に入れるそばから母がゴミをあさる
解決の極意
- 母親の動きをじっくり観察す
- 母親に納得してもらってから処分
- 「捨てる」という言葉はなるべく使わない
- 急いで進めない
親を傷つけるNGワード
- こんな物までとっておいて
- もういらないでしょ
- 前はキレイ好きだったじゃない
- 何でできないの
- やってあげているのに
- 私が大変になる
- 捨ててよ!
「捨てよう」は禁句! 「整理しよう」といった前向きな言葉掛けを。
- 一緒に片付ける
- 「捨てよう」は禁句
- スケジュール通りに進めようとしない
- 「真夏・真冬の片付けはやらない」
- 不用品回収業者などプロに頼む
きっかけ、年代、費用、期間・・・独自アンケートで判明した「実家の片づけ」の大変さ。
- モノへの価値観は親と子ですれ違う
- 次ページ「実家の片づけ」は女性に多い問題?
- 「親の死去」がきっかけとなるケースが多い
最近、「親の家の片づけ」に頭を悩ませ、年末年始の帰省が憂うつという人が増えている。
「ゴミ屋敷」まではいかなくても「片づけられない老人たち」の問題は年々深刻化しているそう。
日本の家には、今、急速にモノが増えている!
最初が肝心。捨てるのではなく、安全な空間をつくるつもりで
親をじっくりと観察。今の暮らしにあった収納ルールを考える
わたしが整理する → 母が戻す → わたしがまた捨てる
こんな事をやっていると、さすがにイラッときます。
- 話し合いながら片付けよう
- ゴミ処分は正しい分別を
- 収納場所をメモして忘れ防止
高齢者は捨てること自体が精神的負担で、所有物の全てが必要と思う。片付けでは価値観を押しつけないように、「必要な物か」ではなく、「使っている物か」と尋ね、一緒に作業する。その際に親が迷ったら即断させない。また、片付けた後に収納場所を忘れてしまうこともあるため、収納メモを作り、常用品は見える場所に整理する。