2018年9月、日本における妊産婦死亡の原因の1位が自殺であるという、衝撃的な調査結果が発表されました。

子育ての不安やストレスによって起きる「産後うつ」が自殺に至る大きな原因の一つと考えられています。

そこで今回は、「産後うつ」とは具体的にどんなものなのか、その課題について考えます。

「産後うつ」とは?

「産後うつ」とは、うつ病の一種です。女性は妊娠・出産によって生活環境が大きく変化します。出産は女性の体には大きな負担です。産後なかなか体調が回復しない中、慣れない育児にかかりきりになったり、毎晩泣き止まない赤ちゃんのお世話で寝不足になったりして、身体的にも精神的にも疲労とストレスがたまっていきます。

産後母親にかかるストレスには様々なものがあります。例えば出産後も仕事を続ける予定だったけれど、保育所不足で仕事を断念することになったとか、妊娠・出産を理由に解雇されたり、退職を促されるケースもあります。また、育児休業が思ったように取れなかったり、勤務時間が長すぎて育児との両立が難しかったりして、不本意ながら仕事を辞める選択をすることもあります。

加えて、核家族化で赤ちゃんと母親が二人きりの時間が続くと、思い通りにいかないことの連続で情緒不安定になったり、イライラすることが増えてきます。出産前はマイペースに過ごしていたのに、産後は赤ちゃん中心の生活になり、自分の時間が取れなくなります。母乳が思ったように出ないことで負い目を感じたり、赤ちゃんの病気や発育が遅いことが不安で育児ノイローゼのようになることもあります。

産後、女性が抱える問題は人それぞれ異なりますが、こうした様々なストレスが積み重なって「産後うつ」が起こります。「あんなに楽しみにしていた育児が楽しく思えない」、「こんなはずではなかった」など、気持ちの変化に気付いたら要注意です。症状が重くなると笑顔が消え、無気力になってぼうっとしたり、頭が働かなくなったり、食欲がなくなったりします。「産後うつ」は自殺の原因になるばかりでなく、子供の虐待に繋がる恐れがあることが分かっています。

妊産婦の心のケアが置き去りに

日本は現在、医療面では世界一安全にお産ができる国と言われていますが、その一方で妊産婦の心のケアが置き去りにされてきました。その重要性が注目され始めたのはつい最近のことです。そのため、妊産婦と接する産婦人科医、助産師、看護師らが妊婦の精神的な問題に対応することは、これまでほとんどありませんでした。

しかし近年、妊産婦の自殺率の高さが問題となり、啓発運動が活発になってきています。2015~2016年に102人の妊産婦が自殺しており、そのうち92人が出産後の自殺です。初産や、35歳以上の女性の割合が高い結果になっています。産後うつは10人に1人がなるといわれ、決して他人ごとではありません。今後、産後うつの早期発見、乳幼児健診を通じた母親への支援の強化が至急望まれます。

今後の課題

国は、「産後ケア事業」に力を入れる方針ですが、残念ながら現在、産後ケア事業を実施している市区町村は全国で26%しかありません。

それに、「産後うつ」の問題は「産後ケア」だけで解決する問題ではありません。望まぬ妊娠、仕事と育児の両立の難しさ、待機児童の問題、妊娠・出産に対する会社の理解が進まないこと、貧困など、様々な社会問題が「産後うつ」の問題と結びついています。

サポートが必要な人ほど、自分から助けを求めることが少ないと言われる深刻な問題です。周囲の人間や、医療者側が積極的に声をかけ、相談機関に結びつけていくことが大切です。

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