日本の民話や昔話、中国の民話などの挿絵で有名な赤羽末吉さんの絵本を紹介します。
日本古来の伝統を伝える絵が物語の魅力を引き出し、配色の美しさが心に残ります。また、中国やモンゴルの壮大な大地を描いた絵の数々は、見る人の心を圧倒する力に溢れています。
長く読み継がれているロングセラー本が多いのが特徴です。
だいくとおにろく(松居 直 再話、赤羽末吉 画、福音館書店 1962年)
だいくとおにろく
鬼と大工の対話形式で話が展開するという、日本の昔話の中ではちょっと珍しいお話です。
赤羽末吉さんが描く日本らしい伝統的な絵が物語と見事にマッチしています。壮大な赤い橋、鬼の生き生きとした表情、知恵を働かせて対話する大工の台詞のひとつひとつ。すべてが魅力的で、子供たちを惹きつけます。謎めいた言霊の力も、この昔話の魅力です。
この絵本は、幼稚園から小学校低学年向けの読み聞かせの定番となっています。
スーホの白い馬(大塚勇三 再話、赤羽末吉 画、福音館書店、1967年)
スーホの白い馬 (日本傑作絵本シリーズ)
モンゴルの民話で、馬頭琴という楽器ができた由来を物語ります。
横長い大型の本の見開き全体にモンゴルの壮大な情景が描かれ、赤羽末吉さんの描き出す情緒的な物語の世界にどっぷり浸ることができる絵本です。情景描写が巧みなので、美しい映画を観ているような雰囲気も味わえます。
悲しい音色が心に残る名作絵本です。
大さまと九人のきょうだい(君島久子 訳、赤羽末吉 絵、岩波書店 1969年)
王さまと九人のきょうだい―中国の民話 (大型絵本 (7))
中国の少数民族に伝わる民話を絵本にしたものです。
残酷で我儘、勝手放題の悪い王様に、それぞれ特別な能力を持つ9人兄弟が力を合わせて立ち向かいます。びっくりしたり笑ったりすることの連続で、読みながら先を推理するのも楽しい絵本です。困ったり、ほくそ笑んだり怒ったり、百面相のような王様の顔が読者の笑いを誘います。
何度でも読みたくなる名作絵本です。
おおきなおおきなおいも(赤羽末吉 作・絵、福音館書店 1972年)
おおきなおおきな おいも (福音館創作童話シリーズ)
子供達の空想が弾けるとびっきりの絵本です。
絵は簡略で、使われている色はサツマイモの赤紫色のみ。それだけに、この本の中でのサツマイモの存在感は強烈です。子供たちが自由に想像力を羽ばたかせたらどんな物語ができるのか。のびのびとした感性が光る絵本です。
子育て中のお母さんたちにも是非読んでほしい一冊です。
ほしになったりゅうのきば(君島久子 再話、赤羽末吉 画、福音館書店 1976年)
ほしになった りゅうのきば (日本傑作絵本シリーズ)
天の川にまつわる中国民話に、赤羽末吉さんが挿絵を描いたものです。
大型の絵本で中国の壮大な情景が見開きいっぱいに広がり、見る人を圧倒します。二匹の龍が争って天を破ったり、摩訶不思議な仙人が現れたり、スケールの大きなファンタジー映画を観るような満足感が得られる絵本です。
長い物語なので、読書に慣れていないお子さんには向きません。読み聞かせするなら5歳以降、自分で読むなら小学校中級くらいからおすすめです。
鬼のうで(赤羽末吉 文と絵、偕成社 1976年)
鬼のうで (赤羽末吉の絵本)
切られた腕を取り返しに来る鬼の話は、「御伽草子」や「太平記」などの古典にあり、歌舞伎でも演じられています。
赤羽末吉さんはよくモノトーンの絵と配色のある絵を混ぜて描き進めますが、色を省くことで絵にメリハリが出て、読者に強烈に鬼の姿を印象付ける力があります。
鬼の迫力、緊迫する一瞬の動きを捉えた絵、こだわりの構図など、赤羽末吉さんのこの絵本にかける情熱が熱く伝わってくる絵本です。
わらべうた(赤羽末吉 作、偕成社 1977年)
わらべうた―絵本
日本画の美しさを存分に堪能できる1冊です。
お手玉や手毬、羽子板など、日本に伝わる伝統的な遊びや風習が多く登場し、伝承されるべき日本のわらべ歌がたくさん収録されています。赤羽末吉さんの絵の配色の美しさ、和紙を取り入れた構図の工夫などを堪能してください。
小さいお子さんには言葉の響きの楽しさを、小学生以降のお子さんには日本古来の言葉の美しさ、面白さを伝える絵本です。
くにのはじまり(赤羽末吉 絵、舟崎克彦 文、あかね書房 1995年)
日本の神話〈第1巻〉くにのはじまり
日本の神話(全六巻)の一巻目です。
伊邪那岐(イザナギ)と伊邪那美(イザナミ)の神々の話を、現代の子供たちはどれほど知っているのでしょう。知らないとしたら、日本の古来から伝わる神話について、是非知ってほしいと思います。赤羽末吉さんの絵が日本神話の世界観を見事に表現しています。特に伊邪那岐が地の底の死者の国へ行くシーンは、ぞくぞくするような怖さを伴います。
対象年齢は小学生以降です。
まのいいりょうし(瀬田貞二 再話、赤羽末吉 画、福音館書店 1975年)
まのいいりょうし (こどものとも絵本)
表紙を見ると、男が派手な衣装を着ているように見えますが、よく見ると男が持っているのは鴨や鯉に山芋、きのこなど……。全部山で手に入れたものばかりです。
物語の展開が突拍子もなく、あれよあれよという間に芋づる式に運を引き寄せるので、読むと驚いて笑ってしまいます。
気分が明るく楽しくなる絵本です。
ももたろう(松居 直 文、赤羽末吉 画、福音館書店 1965年)
ももたろう (日本傑作絵本シリーズ)
「桃太郎」は、日本に古くから伝えられている有名な昔話です。そのため、多くの作家によって手がけられ、多種多様な「桃太郎」の絵本が出版されています。
中でも赤羽末吉さんの描く「ももたろう」は、世代を超えて愛されるロングセラー本です。昔話に相応しい落ち着く色合いの中で、きりりと上がった眉の桃太郎が生き生きと描かれています。まさに「これぞ桃太郎!」と言いたくなる姿です。
松居直さんの語り口も耳に心地よく心に残ります。
編集後記
ここで紹介した赤羽末吉さんの絵本は、小さいお子さんには難しい内容のものも多く含みます。一度読んで難しかったら、お子さんが読み聞かせに慣れて長いお話を辛抱強く聞けるようになってから、もう一度再チャレンジしてみて下さい。
美しい絵と壮大な世界観、日本古来から伝わる着物の美しい柄を思わせる優美な色遣い。何度読んでも飽きない魅力を持った絵本ばかりです。