冲方丁が『天地明察』『光圀伝』に次いで執筆した歴史小説です。
主人公は清少納言。言わずと知れた『枕草子』の作者です。「春はあけぼの…」という有名な一文を覚えていらっしゃる方もいるでしょう。日本最初の随筆文学である『枕草子』がどういう経緯で書かれることになったか、それを物語にしてあります。
清少納言が仕えた中宮定子。その華の時代を思い返しながら、その時代を共に過ごせた己の幸福をかみしめる。これは、清少納言の目から見た、中宮定子華の時代の物語とも言えます。
冲方丁氏は歴史小説だけでなく、ファンタジーなども執筆されていますが、そのひとつひとつの作品が独自の個性を持っていて、まるで別の作者が書いているのではないかと驚かされます。この作品も『光圀伝』の荒々しい作風とは一風変わって、女手の柔らかな筆跡が目に浮かぶような、女性らしい雰囲気に満ちています。作品によってここまで作風を変えられる作家を私は知りません。
時代背景を知った上で読むと、より楽しめると思います。
※『はなとゆめ』冲方丁、角川書店、2013年