皆さんは、「ワークライフバランス」という言葉を知っていますか?
ワークライフバランスとは直訳すると「仕事と生活の調和」という意味になります。
ワークライフバランスが取れた状態とは、働く人が「仕事」はもちろん「仕事以外の生活」も充実させ、家族や友人との時間を大切にし、家事や育児、学習や地域活動などに取り組みながら豊かな生活が出来る状態をいいます。
つまり、全ての人たちが健康で充実した社会生活を送るために必要とされる考え方です。
ワークライフバランスを実現するために、国と企業を中心に様々な施策が進められています。ところがこのワークライフバランス、言葉の認知度が上がる一方で、なかなか実現していかないとも言われています。
ワークライフバランスを実現する為には何が必要なのか、そして女性にとっての真のワークライフバランスとは何か、国と企業と個人、そして女性の視点から考えてみたいと思います。
国と企業が進めるワークライフバランス
ワークライフバランス〜国の背景
「ワークライフバランス」という考え方が、働く人達を中心に浸透し始めたのは、2007年〜2008年頃のことです。
政府は2007年12月、「ワークライフバランス推進官民トップ会議」を開き、国と企業、そして働く人たちが一体となってワークライフバランスを実現していくことを方針として決めました。
そして、「ワークライフバランス憲章」「仕事と生活の調和のための行動指針」を策定しました。
「ワークライフバランス元年」と言われたその翌年には、政府によりワークライフバランスに関する様々なシンポジウムが開催され、ワークライフバランスを支援するための制度も構築されてきました。
では、国は何故ワークライフバランスを推進することを決めたのでしょうか?
その背景には少子高齢化問題があります。
少子高齢化問題
過去を見ると、日本の人口は2004年まで増加を続けていましたが、その後減少に転じました。
2004年に1億2779万人いた人口は、2013年9月にはおよそ1億2727万人となっています。あまりに数字が大き過ぎるので、「10年でたかが52万人しか減っていないじゃないか」と思ってしまうかもしれませんが、これは大変な数字です。
日本は既に少子高齢化社会に突入しています。このままのペースで減少を続けると、2055年には1億人を切り、8993万人になると推定されているのです。
少子高齢化が進むということは、労働人口(働く人・働きたい人の数)が減少するということを意味します。労働人口が減るということは、日本の経済成長に大きな影響を及ぼすことになります。国としては何としても出生率の低下に歯止めをかけねばなりません。
少子化の直接の原因は、晩婚化・晩産化です。
日本では男女ともに1980年代から未婚率が上がり続けており、2010年の統計では男性の生涯未婚率(50歳の時点でまだ結婚したことがない人の比率)は20.14%、女性は10.61%となっています。男性の場合、この数値を30年前と比較すると何と10倍です。結婚しない・結婚しても出産適齢期を超えているということは、必然的に子供を持つことをあきらめる人が増えるということです。
日本では、女性一人あたり2.07人の子供を産めば、人口が保たれると推計されています。これに対し、厚生労働省が発表した2013年の「合計特殊出生率(女性が一生のうちに産む子供の数を指標化したもの)」は、1.4でした。このままでいけば2055年には1.26になると予想されています。国が何の対策もうたなければ、人口は減る一方です。
国としては労働力である女性に就業してもらいつつ、子供もたくさん産んでもらいたい。そのためには国と企業が連携して女性の就労を支援する必要があります。また、企業の支援だけでなく、夫が家庭での家事育児を妻と分担することで、女性の負担はさらに軽減します。そのためには女性だけでなく、男性のワークライフバランスも進めていかなければなりません。
このように、国がワークライフバランスを推進するのは、少子化に対し大きな危機感を抱いているからであり、そのために女性の就業支援を中心とした施策となっているのです。
ワークライフバランス〜企業の背景
ワークライフバランスを実現するためには、国が作った制度を企業が推進し、連携して進めていく必要があります。
国は企業に対しワークライフバランス推進を求めるため、男女雇用機会均等法・次世代育成支援推進法・育児介護休業法等の法律を改正してきました。企業はこれに従い、社内の規程や要領を改訂し、女性が出産しても働き続けることが出来る環境づくりを進めてきました。
では、企業側は、ワークライフバランスをどう捉えているのでしょうか。
国と同様に、「仕事と育児の両立を支援し、男性の家事育児参加を応援し、少子化問題を解決していきたい、それが自社のメリットだ」と考え、積極的に推進しているのでしょうか。
もちろんそうではありません。企業にとって晩婚化・少子化の問題や男性の育児休職取得、まして男性の家事・育児参加などは関係ありません。
それらは企業の存続や売り上げに直結する問題ではなく、やらなくても事業活動に影響はないのです。国が決めたことだから従うしかないという理由で制度を取り入れる企業がほとんどで、ワークライフバランス、特に女性活躍推進に本気で取り組もうという企業はまだまだ少ないのが現状です。
では企業側にはワークライフバランスに取り組む必要性はないのでしょうか?
実は企業にも、国とは違った視点で、ワークライフバランスに取り組まなければならない理由があります。
長時間労働の問題
日本では従来から、長時間労働が問題視されてきました。日本人一人当たりの一年間の総労働時間は欧米諸国と比べて最も長く、又平均帰宅時間は最も遅い。これは残業による長時間労働が常態化していることを示しています。
長時間労働を続けることによって、労働による肉体的負荷があることはもちろん、睡眠時間や休養時間は当然削られます。趣味のための時間や家族と過ごす時間も減り、心身の疲労は蓄積していきます。そのまま長時間労働を続ければ、健康を阻害し、メンタルヘルス不全に陥るかもしれません。
万が一過労死や精神疾患を引き起こせば、業務に支障が出ることはもちろん、企業は社会的に大きな批判を受けることになります。また、長時間労働が常態化すれば、長時間労働による時間外手当というコストも膨大な金額になってしまいます。
優秀な人材の確保
一方、今後少子化が進み労働人口が減少すると、企業の人材確保が競争になることは目に見えています。
今の学生は就職活動の際に「ワークライフバランスが取れる会社か」を重視すると言われています。長時間労働で社員が疲弊している会社に、優秀で頭の良い人材が採用されたいと思うはずがありません。仕事と生活の両方を充実させることの出来る、働きやすい企業が選ばれるようになるのです。
働き方を見直し残業をなくし、仕事と生活の調和をとる。つまりワークライフバランスを推進するということは、従業員の健康を維持し、現在・そして将来の優秀な人材を確保し、成長し続けることが出来る、企業にとっても大きなメリットがあることなのです。
国と企業が連携したワークライフバランス推進
ワークライフバランスを推進することにより、国は女性が働きやすい社会を作り、仕事と育児の両立を支援し、労働人口を増やしたいと考えています。そして一方企業では、仕事と育児の両立支援よりも長時間労働を減らして無駄なコストを削減し、優秀な人材を定着させたいと考えています。
つまり国と企業がワークライフバランスを推進する最終目的は「労働力の確保」であるという点では同じですが、それぞれが推進する背景は違い、ワークライフバランスの認識にギャップが存在しているわけです。
ワークライフバランスの認知度は上がっているけれどもなかなか少子化の解消や労働人口の増加には向かわず、長時間労働も女性の活躍度もあまり変わらない・・・ワークライフバランスが実現しないと言われる原因の一つはこの認識の違いにあります。
認識が違うことにより、それぞれの進める施策にずれが生じてしまうのです。
ワークライフバランスを国と企業が連携して推進して行くためには、国は保育所の拡充や育児で休職している期間の所得の保障など、働く女性に対する直接の支援はもちろん、制度推進者への支援や推進した場合の助成金など、企業にもメリットのある制度をつくることが大切です。
そして企業のほうも国からのやらされ感でワークライフバランスを進めるのではなく、少子高齢化を含めた会社の将来を見据え、自社のワークライフバランスをどう推進していけば良いか考えることが必要とされるでしょう。
個々の企業は業種によって時間管理の仕方も違うでしょうし、男女の比率もどの会社も同じという訳ではありません。
現存の従業員の年齢構成やモチベーションなどによって、活用すべき制度も違ってくるでしょう。まずは自社の事業にとって何が重要で優先すべき課題なのか、見極めることが大切です。
そしてそれぞれの企業が独自のワークライフバランスの形を作っていくことが、その企業で働く従業員に最も適したワークライフバランスになるのではないでしょうか。そして結局それが、日本全体のワークライフバランスを進めることになるのです。
家庭でのワークライフバランス
ワークライフバランスは、国と企業が連携して推進することで効果を発揮します。しかし国と企業がいくら良い制度を作り、就労環境や子育て環境を整えたとしても、働く個人がプライベートや家庭の中でそれを活かされなければ意味がありません。
結婚していない男女であれば、趣味や勉強等の活動をより充実させることで、仕事との良い循環を作ることが期待されます。結婚している男女であれば、大切にすべき家族の為に時間を使うことが求められるでしょう。
特に働く女性にとって、家庭での男性の支援は重要です。国が目指す少子化解消には男性の家事・育児参加が有効とされています。では、男性の家事や育児への関わりについて、現状はどうなっているのでしょうか?
男性の家事時間
近年、「イクメン」「カジメン」という言葉をよく聞くようになりました。「イクメン」とは、子育てを妻任せにせず自ら参加しそれを楽しみ、家族を支える男性のことです。「カジメン」についても同様です。
総務省の2011年の統計によれば、男性の一日の家事育児時間は平均で48分。そのうち家事時間はなんと18分しかありませんでした。女性の家事時間平均である2時間32分と比べてもその差は歴然としています。これは先進国の中でも最低レベルです。子育て世代の男性の多くは、仕事と同様に家庭を大切にしたいと考えています。それなのに何故日本の男性は家事をしないのでしょうか。
その理由の一つとされているのが、長時間労働です。
確かに帰宅時間が遅くなれば子供を保育園に迎えに行くことも、食事を作ることも、一緒に食事をすることすら難しくなるでしょう。寝る時間が遅くなれば起床も遅くなり、洗濯もゴミ出しも妻ということになるかもしれません。
長時間労働が男性の家事育児参加を阻害しているというのは一つの理由になりそうです。
では長時間労働さえ解消されれば、男性は積極的になるのでしょうか?
実はそうとも言えないようなのです。育児連家事プロジェクトの調査結果では、夫の労働時間と家事・育児時間の増減とに明確な関係は見られないという結果が出ています。つまり、男性は「忙しいから家事も育児も出来ない」わけではないのです。
では何故男性は家事育児に消極的なのでしょう?
過去日本では父親が働き、母親が家事全般を担うというのが一般的でした。今の30代〜40代の働く世代の多くはそのような家庭環境で育っており、「女性は家事をするものだ」という考えが、男性にも女性にも深く刷り込まれています。
女性は「女なのだから」と小さな頃から家事の手伝いをさせられてきた一方、男性は父親の仕事の手伝いをすることはあっても家事をさせられることはありません。結婚するまで実家で生活してきた男性であればなおさら家事の経験はないでしょう。
そんな男性が結婚し、働く妻に「ワークライフバランスだから」といきなり家事や育児を分担させられても、何からはじめればいいのかわかりません。そもそも「家事は女性がやるもの」と刷り込まれて育っています。積極的な家事参加が難しくなるのはよくわかります。
家事の価値を上げよう
一方女性側にも、社会進出するに従い「無償の家事労働より、お金をもらう賃金労働への参加に価値がある」という考えが見られるようになりました。
男性も女性も、生きるために必要な家事労働の価値を下げてしまったのです。価値のない労働に積極的になる人は居ませんから、次第に「家事は面倒」「仕事のほうが大事」ととらえられるようになります。
家事が「面倒なもの」ととらえられるようになると、「面倒な」家事は、男性と女性の間で押し付け合われることになります。「これくらい、あなたがやってよ」「母親なんだからそれくらいやれよ」と、共働きの夫婦の間でお互いへの不満が溜まっていきます。そして当然、押し付け合う家事はちっとも楽しくありません。
これは、育児についても同じことが言えます。
こうして社会的に家事や育児の価値が下がれば、職場でも家事育児を理由とした家庭の事情について理解されることはないでしょう。「男が家事なんて女々しいことだ」「子供の行事くらいで休むな!」などという上司の言葉が想像出来ます。
まさに負のスパイラルで、これではワークライフバランスなんて実現出来ません。
しかし家事・育児とは、人間が健康を保ちながら生きていく上で欠かすことが出来ないものです。
家族の命を支えるものであり、家族に対する愛情表現とも言えるものなのです。賃金労働の対価はお金という形でしか受け取ることが出来ませんが、家事や育児を通した愛情は、家族に精神面での安定をもたらし、子供の成長という形で返ってきます。
家族の結びつきを強くし、最終的には自分の生活が充実します。家事・育児には賃金労働にはかえられない価値があるのです。
男性も女性もその価値を見直すべきです。
家事や育児を価値あるものととらえ、お互いに協力し合いながら楽しむべきなのです。家事・育児、そして家族のために定時で帰る社員が増えていけば、職場の理解も得られ、男性の育児休職者も増えるかもしれません。
そして両親が楽しみながら行う家事育児は、今後の男女共同参画社会を生きる子供たちに、身をもってワークライフバランスを教えることになるに違いありません。
女性のワークライフバランス
女性にとって、国も企業も就業を支援してくれる、働きやすい時代になりました。結婚しても出産しても就業を続けられるよう、今後ますます国は女性の就業支援に力を入れていくでしょう。
過去を見ると1985年の男女雇用機会均等法を経て女性が社会に進出するようになり、働く女性の数は増え続けてきました。雇用・就業の上での男女差別がなくなり、大卒女性が総合職として入社することも今やめずらしいことではなくなりました。
会社では女性であっても責任ある仕事を任せてもらえるようになったし、男性との差別なくキャリアアップを目指せる環境も整ってきています。2012年の調査によれば、20代から30代の働く女性の数は過去最高を記録しており、女性の7割が働いている、という結果が出ています。
しかしながら、時代が変わり雇用環境が整ってきたとしても、女性の出産適齢期が変わることはありません。
キャリアアップを目指す女性が入社後に責任ある地位を任されるのは20代後半から30代前半。そう、調度出産適齢期にあたります。出産でキャリアを中断したくない、そう考える女性は結婚や出産を控え、遅らせるようになります。これが、晩婚・晩産の一つの原因となっているものです。
これだけを見ると、「女性が社会に出たことで、少子化が進んだ」ととらえられるかもしれません。でも直接の原因は、女性の社会進出ではないのです。
何故ならキャリアアップを目指す女性も、「子育てがしたくない」訳ではないからです。
では、女性は一体どのような働き方や子育てをしたいと望んでいるのでしょうか。
女性が望む働き方
ブライダル総研の2012年調査によれば、理想とする働き方についての女性意見では、「子育て期には一旦仕事をペースダウンしたい」というのがトップになっています。「一度辞めたら再就職が難しいから、辞めずに育児休職をとった」「自分は子供が好きだから、子供が幼いうちは子育てに集中したい」等の理由からも、その後のキャリアに影響が出ないのであれば、本当は出産後しばらく子育てに集中したいのだ、という女性の本音が見てとれます。
キャリアアップを優先し、結婚や出産をあきらめる女性、そしてやはりキャリアアップを優先し、自分の望む子育ての形をあきらめる女性。なんとなくここに、働く女性の結婚や子育てに「歪み」があるように感じられないでしょうか。
国や企業が積極的に女性の両立支援をしてくれるのは非常に有難いことです。
しかし全ての女性が「産後は育児休職を取り、フルタイムで復帰する」ことを望んでいるわけではありません。女性が希望する働き方や子育ての形は本当に様々です。
パートタイムで働きたい人もいるでしょうし、会社は一旦辞めて、子供が小学校に入学したら又フルタイムで働きたいと考える女性もいるでしょう。
産前産後休暇だけで、すぐにでも働きたいという女性もいるかもしれません。
つまり女性の就業支援には「同じ企業での働き続けやすさ」はもちろん、「一度退職した後の再就職のしやすさ」「働き方の選択のしやすさ」も重要であると言えるのです。
「働きたいけれど希望するのはフルタイムではない」という理由で、一般の企業での就業をあきらめている専業主婦の女性はたくさんいます。また、「子供が居るという理由で採用してもらえなかった」という女性の話もよく聞きます。
「辞めずに働き続けられる」のと同じく、「辞めてもまた働くことができる」ようになれば、働く女性は確実に増えるはずです。
女性にとってのワークライフバランスとは、「自分が望む形」で仕事と家事・育児をすることが出来て、はじめて実現したと言えるのではないでしょうか。
一方、「自分が望む形」での仕事と家事・育児を実現するためには、女性自身が理解し、意識を変えなければならないこともあります。
女性が理解すべきこと〜女性の体
働く上での「男女平等」。
この考え方や法律は、女性に働く機会を与え活躍の場も広げました。しかしその一方で、現代の働く女性の体に負担を強いる結果になっているとも言われています。
女性が働き続ける為には、女性の体についてよく理解しておくことが必要です。
女性は産む性
まず、大前提として考えなくてはならないのは、「女性は産む性」だということです。産む・産まないに関わらず、「女性は産む性」です。当たり前過ぎて意識することすらないかもしれませんが、女性はこのこと抜きでキャリアを考えることは出来ません。
産む性だから10代で生理が始まり、20代・30代に出産適齢期のピークを迎え、50代に閉経、早い人では40代の半ばくらいから更年期を迎えます。晩産化の進む日本では、今は40代でも(人によっては50代でも)出産することがありますが、もちろん「40代でも50代でもまだ大丈夫」なのではありません。40代や50代での出産は、出産適齢期で産む場合と比べ、出産・子育てともにリスクが伴います。
女性の体の作りは大昔から今も変わっていないのです。
女性の体について知っておくべきこと
そして女性がかかりやすい病気というものがあります。
女性は年齢に応じてホルモンの影響を受け、体と心に大きな変化が起こります。そのため、気をつけたいトラブルや病気も年齢によって異なってきます。女性の体は男性とは比較にならないほど複雑な構造をしているので、その体のどこかにちょっとした狂いが出た時、女性だけにしかない病気があらわれてくるのです。
女性特有の病気には「子宮がん」「乳がん」があります。また、男性に比べホルモンバランスが崩れやすく、女性ホルモンの分泌量の減少によって冷え性、生理不順のほか、自律神経の乱れからくる頭痛や肌あれ、動悸、イライラ、不眠など、様々な症状に悩まされることが多くあります。メンタルヘルス不全も、女性に多いとされています。
そして閉経前後の更年期は誰にでも訪れるもので、女性全体の9割近くはのぼせや不眠・頭痛・肩こり等々、何らかの症状を感じると言われています。最近では男性の更年期障害もあると言われていますが、女性に比べて軽度で、日常生活を送るのに問題がないことがほとんどです。これに対し女性の更年期は重く、個人差はありますが10年位続くこともあります。
働く女性に「生理休暇」はあっても、「更年期休暇」はありません。女性が定年まで働き続けようと思ったら、いつ終わるかもわからない更年期の苦しみに耐えながら、働き続けなければならないこともあるのです。
また、男性と女性では、そもそも体の作りが違います。
女性の筋力は男性の60%〜80%、持久力は70%〜80%。男性と女性ではやはり男性の体力が勝ります。男性と同等に働こうと思えば女性は体力も限界ぎりぎりまで使わなくてはならないかもしれないし、生理だろうが更年期だろうが、痛みや辛さを隠して我慢しなければならないかもしれません。
女性が男性と同じ土俵で働き続けようと思ったときに、このような女性の体についての知識や、自分の体が今後年齢を経てどのように変化していくのか意識しておくことが必要です。
自分の体を犠牲にすることなく、自分はどう働き、どうキャリアを築いていくのか考える。女性が女性らしく生き生きと人生を楽しむために、自分の体と向き合うことはとても大切なことなのです。
女性が意識すべきこと〜キャリアデザイン
女性活躍支援に向け、女性に対するキャリア教育の必要性も高まってきています。
企業で行われるキャリア研修は、入社3年目や10年目等の節目を迎えた社員を集めて行われることが多く、参加者はそれまでの仕事を振り返り、自分の強みや弱みを確認した上で、その後のキャリアをどう築いていくかを考える、というのが一般的です。
このキャリア研修では、参加者の視点が向けられるのは全て「社内の」自分であり、あるべき姿です。ここに子育てをどうするか、介護をどうするか、家族との生活をどうするかといった視点はもちろんありません。
企業は会社で使える人材を育てたいのだから会社の中でのキャリア形成について教育すれば良く、プライベートのことまで支援する必要はないからです。
男性社会の中では育児や介護でキャリアを中断するといったことは(今後は必要になってくるでしょうが)考えられていません。しかし女性の場合はそういう訳にはいきません。
女性の場合、子供を産むことが女性にしか出来ない以上、キャリアの中断は必然として起こります。特に若い世代は、「まだ先のことだからわからない」と思うかもしれませんが、その「わからない」ということがキャリアを描きにくくします。繰り返しますが男性社会の中では結婚しようが子供が出来ようが「キャリアを中断する」ということは考えられていません。
男性と女性で、ここに大きな差があるのです。
キャリアで悩んだAさん
Aさん(女性)の例を紹介しましょう。
AさんはB社に勤めて10年目に結婚し、12年目に妊娠しました。
それまでAさんは「自分は妊娠したら辞めるだろう。会社には育児休職を取って復職した女性は居ないし、自分が第一号となる自信もない。」と漠然と考えてきました。
ところがいざ妊娠し、退職するか続けるかの選択を迫られた時、Aさんはものすごく悩んでしまいます。
勤続して12年。事務職として入社したAさんはその仕事ぶりが認められ、周囲から「総合職を受けてみたら」と勧められる程になっており、自分自身も非常に仕事が面白くなっていた時でした。
「今仕事をきっぱりと辞めて家事と育児だけに向き合えるだろうか?」仕事を続けることには不安はありましたが、一方で仕事を辞めて家事育児だけに向き合うことにも同じように不安になってしまったのです。
Aさんは焦ります。
お腹はどんどん大きくなる。そして同じように不安もどんどん大きくなる。社内にはロールモデルは居ませんから、仕事を続けることについて相談することが出来ません。
Aさんは過去にキャリア研修を受けたことがありましたが、その研修では妊娠した場合どうするかということは考えることすらしていません。
妊娠して一番嬉しいはずのその時期を、Aさんは鬱々として過ごすことになります。
Aさんがこのまま仕事を続ける選択・辞める選択、そのどちらを選択したとしてもそれなりに選んだ道を進んでゆくことでしょう。しかし選んだ道の半ばで「あの時あの道を選んでいたら」と想像し、後悔することもあるのではないでしょうか。
Aさんはこの後、自分でロールモデルを探します。
社内には居ませんから、辞めてしまった先輩や他社の友達等、子供を持って働く友人・知人に片っ端から相談します。自分が目指したい姿を描けるようになるまで相談し続け、最終的には仕事を続けることを選びます。
Aさんは言います。「あの時周囲のたくさんの女性と話をし、自分の生き方とあてはめ、今後の自分の仕事と子育てについてしっかりと考える時間を作ったからこそ私は決めることが出来た。そうでなかったら、どちらを選んだとしても、未だに後悔していたかもしれません。」
女性にとってのキャリアプラン
一般的に企業の中では女性社員の数が少なく、役職者もまだまだ少ないと言われています。
男性であれば日々仕事をする中で目にする上司や先輩がロールモデルとなるので、自然と自分のキャリアを意識しますが、女性は目指すべきモデルを一生懸命探して、自ら考える時間を作らないとそれが出来ません。
結婚や出産のことを全く考えずに会社の中だけのキャリアアップの道筋を意識し進み続けた結果、結婚も出産も機会を逸してしまうかもしれません。又、いざ妊娠した時にAさんのように自分が選ぶべき道を迷い、冷静な判断が出来ないかもしれません。実際に、そんな女性はたくさん居るのです。
女性が仕事を続けようと考えるのならば、何年働き、どの役職を目指したいのか等、会社でのキャリアはもちろん、子供は何人産みたいのか、仕事はどのように中断するのか、自分が望む働き方は、自分の体力で乗り切ることが出来るのか、若いうちから意識しておく必要があります。
自分の将来としっかりと向き合い、ライフイベントや自分の体のことも考えたキャリアプランを作ること。働き続ける女性にとってのキャリアプランとは、まさに人生のプランを考えることに他ならないのです。
女性としてどう生きるか
ワークライフバランスの実現には、環境・制度・本人の意識等まだまだ課題が多くあります。
女性が仕事も家庭も育児もと頑張る一方で、「女性の仕事」についての新しい価値観を受け入れる準備がまだ出来ているとは言えません。女性にかかる負担は大きく、働く女性も専業主婦の女性も、自分の仕事や生き方について葛藤したり、不安になったりしているのが現状です。
2013年に亡くなった登山家の河野千鶴子さんは、幼少の頃から男尊女卑を言われて育ち、大人になって助産師として働きながらも、「家事育児は女性の仕事である」という周囲の視線に次第に自分の限界を感じます。そして50代半ばで登山と出会い、「山では男性も女性も平等、自分には無限の可能性がある」と知ります。山に魅せられて10年、亡くなるまで生きる原動力を山に求め続けた方でした。
その河野さんが遺した膨大な手記や言葉の中に、こんなものがありました。
- 共働きなのに、何故女性だけが子育ても家事もしなければならないのか
- 仕事も家庭も、自分は中途半端にしている
- 自分はいつも他人のために生きている
河野さんは職場では40人を束ねる管理職として活躍し、家庭では3人のお子さんに囲まれ、働き続ける女性にとって、ロールモデルのような生き方をされていました。
周囲から見れば全てを手に入れたように見える河野さんであっても、心の中では他の女性と全く同じような悩みを抱き、女性とは何なのか、自分とは何なのかを求め続けていたのです。
そしてたった一人で山に登り、頂上に立つことが出来た時、初めて「女性の壁」を乗り越えることが出来たと感じます。河野さんは以降山に魅了され登山を続け、最後は山で遭難して亡くなりました。
女性にとって、周囲の「女性の仕事に対する価値感」の壁はまだまだ厚く、仕事への理解を得られないこともあるし、自分の思うようにいかないこともたくさんあると思います。また自分の意思とは関係なく、人生の一時期は妻や母や嫁、そして娘等、何らかの役割に専念しなければならない時があるかもしれません。
でもその役割をこなす時、自分が自分の足で立っているという実感があれば、辛くても乗り越えることが出来るのではないでしょうか。そしてそう実感する為に、まずは自分のライフキャリアを描き、自分が今立つ場所に意味を見出すことが必要なのです。
自分がどうありたいのか、自分の人生をどう生きていきたいのかを自分に問い、将来のライフキャリアを描きましょう。大きなことでなくてもいいし、すぐに変わってしまってもいいのです。
目指すキャリアのために、今の自分がある。自分は他人に決められたのではない、自分で決めた人生を、自分の足で歩いている、そう意識することが大切なのです。
環境がどうあろうと揺るがない「自分」を、「自分から」生きる。
それこそが、女性にとって真に豊かな人生であり、自分にとってのワークライフバランスなのではないでしょうか。